子猫の思い出
〜 「子猫」
今年も寒い季節がやって来た。毎年この時期になると、必ず思い出してしまうことがある。
それはもう5、6年以上も前になるが、ある一匹の子猫の事である。
地元の広い空地に駐輪場があり、私はいつもそこを利用していた。
その日もとても寒い日だった。
一匹の子猫が、私の後ろをついて来てミャーミャーと懸命に鳴いていた。
子猫は可愛かったが、飼える予定もなかったので心の中で(ごめんね…)とつぶやきながら無視した。
そんな日が三日くらい続いた。
ある時、あまりにも悲痛な鳴き声に負けてしまい、カバンの中に入っていた食べかけのパンを与えてしまった。パンを与えると夢中で食べだした子猫を尻目に、逃げるように帰った。
その翌日、子猫はいなかった。誰かに飼われたのだろうか。それともどこかに移動したのだろうか…
しばらく姿を消して数日たったある日、子猫の姿が駐輪場にあった。
学生達に囲まれて可愛がられていた。
子猫の姿を遠くから見て、安堵した。子猫に気づかれないようにそっと帰ろうとしたその時だった。
子猫が学生達の中からすっと離れこちらにやって来たのだ。学生達は驚いていた。 「ちょっとー、どこ行くのー?」
子猫は私の前で立ち止まり、まっすぐ見上げると、小さくもしっかりとした声で、「ミャー」と一言鳴いた。数秒後、また学生達のほうに戻って行った。
私はしばし呆然としていた。
きっと子猫は、お礼を言いに来たのだろう。私は嬉しいような泣きたくなるような気持ちを抑え、家に帰った。
あの子猫は今、どうしているのだろう。
今でもあの子猫を忘れることができない。
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